本年は、ミクロネシア産スポンジDysidea herbaceaより単離・構造決定された興奮性神経毒Dysiherbaine(DH)の絶対構造決定、構造-活性相関及び生理活性の詳しい評価に供するサンプルを確保するためDHの効率的単離法の開発を行った。また、同スポンジに含まれるDH類縁物質であるDysibetaineの単離及び構造決定を行った。DHはこれまでミクロネシア連邦ヤップ島産のスポンジD.herbaceaの水抽出物をセファデックスLH20および逆相シリカゲルカラムを用いたHPLCを併用することによって約5X10^<-3>%程度の収率で得られていたが、抽出物には多量の夾雑物が含まれるため、サンプルを大量精製する際に多くの時間を要した。今回、DHの精製工程の効率化を図る目的でいくつかの分離法の組み合わせを検討した。改良法では、セファデックスLH20に加えてバイオゲルP2、トヨパールHW40を担体としたゲルろ過クロマトグラフィーを用いることにより、大量の抽出物を一度に処理することが可能になり、より短時間でDH(収率8X10^<-3>%)を精製することが可能となった。これを用いてin vivoでの詳細な生理活性の検討を行ったところ、DHは、腹腔内、脳室内投与においてドウモイ酸の数倍の痙攣誘発活性を示す事が明かとなった。また、DH投与マウスではテンカン様症状の重積状態が数日持続するなど既知の興奮性アミノ酸にはみられない特徴が観察された。一方、新たに単離されたベタイン化合物Dysibetaine(DB)は、四級炭素を含む新規プロリン誘導体で、DHのテトラヒドロフラン環部分に類似した構造を有する。DBの詳しい生理活性は現在検討中である。今後、DHを化学変換して誘導体を作成しその絶対構造と構造-活性相関を明らかにしていく予定である。
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