本研究では、岩手県北部北上山系における日本短角種経営を対象に中山間地域資源管理システム形成動向の実態分析をおこなった。 当該地域では、昭和40年代以降の北山山系開発事業のもとでの、畜産経営の近代化を支える飼料基盤と草地利用の高度化を目的に、のべ151にも及ぶ公共牧場が整備され放牧事業が実施されてきた。しかし入牧頭数の減少等により利用率が低下し経営の悪化がますます顕在化しているのが現状である。この事態に対処するために現在岩手県では、従来より自己完結型の運営がなされてきた各公共牧場の地域ごとの置かれている条件・特徴を検討し、放牧牛の品種毎の集約あるいは採草牧場等の利用目的別に機能を再編し、それぞれが機能分担することにより、公共牧場の抜本的な再編整備と経営改善を目指している。 しかしこの公共牧場を核とした畜産的土地利用型経営の経営構造の合理化の動きは日本短角種の場合、皮肉なことにそれを支えてきた社会関係と経営単位の崩壊と歩みを同じくする動きである。 草地型畜産経営という理念にせよ、このたびの公共牧場再編にせよ、さらに将来的な短角種経営のあり方に注がれる期待にせよ、それが一定の経営的合理性を根拠に主張され進めれているのは確かである。しかし本質的な経営構造の変革は、それを支える労働組織としての人と人のつながりの変貌を背景として展開を見せるものである。社会学的観点からの積極的存続理由を欠いた組織の運営はきわめて大きな困難に直面する。今日の日本短角種経営は、経営破綻を背景とした行政ベースでの生産形態の変革という事態を迎えており、濃密な社会関係に支えられて今日まで存続してきた短角種の地域的存続意義の喪失という危機にさらされている。作目の収益性暴落という状況の下で経営変革が進むことはあり得ないことがまさに示されている事態である。
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