研究概要 |
当初の計画では初年度は島根県石見地方を調査対象とする予定であったが,諸般の事情により,調査地を愛知県と岐阜県にまたがる奥矢作地域,三重県南部の東紀州地域などに変更した。いくつかの過疎市町村における高齢者福祉の施設や社会的なインフラストラクチャーを比較すると,施設整備の進展度合いの違いもさることながら,意識レベルの高い自治体と低い自治体との差が歴然としていた。福祉は満足を基準としているために,外部からの情報がなければ,低レベルであっても自治体内部でそれなりの満足がえられることになる。こうした情報不足に起因する低水準福祉が続かないよう,市町村間相互の意識交流が望まれるところである。今後,公的介護保険の導入により,より質の高い福祉を求めて人々が居住地を移動する場合もでてくることも考えられる。つまり過疎地域にとってみれば,高齢者福祉の質を高めることによって,高齢生活を念頭においたIターンを見込むこともできる。その実態と可能性,意義について,奥矢作地域の一自治体を対象に考察を試みた(裏面,研究発表を参照)。 また,施設整備が進んでいる自治体であっても,住民の組織化,とくにボランティアなどのネットワーク化はあまり進展していなかった。萌芽的なものについては,やはり女性が中心の組織であった。安易な行政の下請け組織になってはならないが,自分たちの老後を積極的に考えることは地域での生活そのものの見直しにつながる。男性の参加をも含めた福祉ボランティアネットワークの組織化が現在の重要な課題となっている。
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