研究概要 |
本年度においては,以下の研究成果をあげた。 (1)サバルタン(従属的)民衆がかかわる出来事の歴史、とりわけ反乱・蜂起をめぐって、理論的考察をおこなった。とくに、歴史的な「結果」に内在する「原因」の解明作業において、反乱の前史と後史を「縫い合わせる」歴史的諸力をいかに対象化しうるかについて、歴史社会学において強い影響を有してきたフランス・アナ-ル派の構造的持続の概念の批判と、実証主義が前提としてきた歴史認識にかかわる「外部観測」への批判とを軸に、サバルタンが行為者としてあらわれる出来事史の問題構成を中心的な論点においた。その際、ヴァルター・ベンヤミンの「歴史哲学テ-ゼ」、アントニオ・ネグリのスピノザおよびマルクス読解、ジャック・ランシエールの「出来事の歴史」をめぐる提起をふまえた問題構成を論文にまとめた。 (2)1920年代ペル-・南部アンデス高地、プ-ノ県における先住民ケチュア青年による文学アヴァンギャルド運動を対象とし、資本主義浸透によってすすむ社会変容のさなかで先住民青年たちがいかに文化的アイデンティティを追求し、それを言語表現に求めたのかを軸に、サバルタン研究の視座から、その歴史的意義を明らかにし、論文としてまとめた。そのさい、とりわけ、マクロなレヴェルでヨーロッパにはじまるアヴァンギャルド運動の展開が生み出した文化伝播に対するミクロなレヴェルでの先住民による批判的受容をめぐっては、アヴァンギャルドの技法を自らの文化を再生せしめるものとして転用する集団的な言語実験を介して考察をおこなった。
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