平成9年度には、それまでに開発された積雪内での溶存イオン移動をシミュレートする鉛直1次元物理モデルを実測データに適用した。本モデルは積雪内の鉛直方向の水移動を良好にシミュレートした。積雪の陰イオン濃度の鉛直プロファイルについては、降雪が多い時期に積雪上層部で実測値と計算値との適合度が低く、この原因として降水水質の観測間隔が長いことや水平方向を考慮していないことなどが考えられた。また、積雪の不飽和透水係数、水分拡散係数、溶質分散係数が、積雪ぬれ密度と積雪の含水率の関数として表現された。 また、シミュレーションのための基礎データを得るため、人為的に積雪試料を融解再凍結させる室内実験装置を作成した。しかし、実験装置各部の断熱が悪いこと、積雪最下層の下に充填したガラスビーズ表面でイオン交換が起こること等の問題点が判明した。 平成10年度には、この実験装置において積雪最下層からの速やかな排水を行うために、積雪最下層の下に充填する多孔質体について検討した。数種類の多孔質体について予備実験を行った結果、積雪最下層の下にはけい砂を充填することが最も適当であることが明らかとなった。また、実験装置各部の断熱や止水を強化し、実験装置の改良を行った。改良された実験装置では、積雪最上層の温度を任意に制御することや、実験中に積雪試料各部の温度をリアルタイムでモニタリングすることができ、制御された条件下で積雪の物性変化の特性を把握することが可能となった。改良された実験装置に実際の積雪試料を供試して積雪を融解再凍結させた。その結果、積雪内の鉛直方向の水および溶存イオンの、融解再凍結に伴う移動の状況がより精密に把握され、シミュレーションのための基礎データが得られた。
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