研究概要 |
開発の環境に及ぼす影響が社会問題となっている現在,農業用貯水池も従来の利水という視点のみではなく,水環境という視点からあり方を考えていかねばならなくなってきている.汚濁負荷の多くが面源として存在している農用地域においては負荷量の絶対的コントロールはかなり困難であり,必然的に汚濁負荷を前提とする論議が必要となる.そのためには負荷を与えた場合の水質の挙動を化学的と同時に物理的,生物的に把握することが不可欠となる.ここでは一般的な水質化学の立場からだけでなく,水質形成に重要な関わりを持つと予想される水の運動機構および低次の生態系に着目して,農業用貯水池内の水理構造特性の解明を試み,その知見を基にそれらを再現,予測するための数値モデルを開発した.モデルは水温および流れを対象とする水温・流れサブモデル,植物プランクトン,動物プランクトン,栄養塩(リン)を対象とする低次生態系サブモデル,そして,溶存酸素,CODを計算対象とする溶存酸素サブモデルの三つにより総合的モデルを構築した.本研究の特に重要な点としては,鉛直水温分布と鉛直溶存酸素の相関性を指摘するとともに,数値モデルでは,それらをブラント・バイサラ周波数を用いた鉛直渦動拡散係数を通じてリンクすることを試みたことがあげられる.結果として,水温分布,溶存酸素分布において実測値に近い計算値を得ることが出来,モデルが高い実用性を示すことが明らかとなった.
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