研究概要 |
湿田における排水改良を目的とした暗渠排水や汎用化水田における土壌水分コントロールを目的とした暗渠排水は一般的である。一方、水田転換樹園地における暗渠排水の実績は特定の地域に限られている。農産物の品質向上、農作業の効率を高めるためには水田転換樹園地における暗渠排水を施工することが急務な課題となっているが、水田転換樹園地において暗渠の排水効果を定量的に分析した研究例は少ないのが現状である。そこで、本研究では、水田転換畑における暗渠排水の効果を定量的に分析するために、土壌水分ポテンシャルの経時観測、暗渠排水量、降雨量の測定を行っている。これらのデータをもとに、水収支的な観点から暗渠の排水効果を評価することにしたいと考えている。 これまでの研究で得られた知見を整理すると以下のようになる。 (1)圃場内に土壌水分計を設置し、土層深20,40,60cmで土壌水分ポテンシャルを経時的に計測したところ、暗渠未施工圃場では、降雨日、干天日に関わらず、ほぼ飽和の状態で推移していたのに対し、暗渠施工圃場では負圧(乾燥)の状態で降雨パターンに応答する形で推移していた。これは、暗渠を施工することにより排水が促進され、湿害回避できることを示唆している。 (2)暗渠施工初年度の圃場と暗渠施工後5年目の圃場で土壌水分ポテンシャルを比較したところ、60cm深の土壌水分ポテンシャルは施工後5年目で負圧(乾燥)領域での変動が初年度に比べ緩くなり排水効率の低下が見られたが、20cm深、40cm深ではこのような傾向は見られず、全体的には暗渠の排水効率は施工後5年目でも持続しているものと評価できる。 (3)降水の何割が暗渠で排水されるのかという問題に対して、暗渠排水量の経時観測を行い、降水量30mm以上の洪水期間について降水量、暗渠流出量データを整理し流出率を算出したところ、流出率は0.2〜0.9に至るまで広範囲にバラツキを示す結果となった。この原因として、降雨パターンの違いや圃場の植生による降雨遮断の影響、降雨直前の土壌乾湿状態の影響が考えられ、今後さらに流出率を規定する要因について検討を進めたい。しかし、流出率を季別のグループでとらえた場合に、そのグループの中で流出率の値は比較的似ている傾向を示していた。流出率は夏期では0.2〜0.5と低い値なのに対して秋期や春期では0.7〜0.9と高い値を示す傾向があった。 今後の課題として、圃場の植生、降水量、暗渠流出量、土壌水分ポテンシャルの相互関係についてさらに詳しく分析し、暗渠の排水効果を総合的に評価したいと考えている。さらに土壌水分ポテンシャルと作物収量の関係についても調査したいと考えている。
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