本研究は平成8年度文部省科学研究費補助金を得て開始されたもので、前年度までに細胞の分離・培養条件がほぼ確立された。平成9年度は、培養した乳腺上皮細胞を分化誘導し、ミルク蛋白質を発現する機能が維持されていることを確認する研究を主体に行なった。具体的には、ミルク中の主要蛋白質であるカゼインの発現をmRNAレベルと蛋白質レベルで追跡するために、RT-PCRとウエスタンブロットを行なった。RT-PCRに使用したプライマーはDDBJのデータバンクから作成し、カゼインの抗血清はブタカゼインをカラムクロマトグラフィーによって精製し、マウスに免疫して調製した。カゼインの誘導は他種乳腺上皮細胞の場合に倣い、プロラクチンやウシ胎児血清の添加区を設けて観察した。その結果、プロラクチン添加、血清無添加の条件で誘導した場合に限り、細胞中にカゼインのmRNAが存在することがRT-PCRによって明らかとなった。血清の存在は他の乳腺細胞と同様、増殖には有効であるが、分化には阻害的に作用することが伺われた。しかしながら、前述の条件で培養・回収した細胞培養液を試料とし、ブタカゼイン抗血清を用いたウエスタンブロットを行なったところシグナルは観察されなかった。この原因はカゼインの分泌が充分に行なわれず、細胞から培養液中への放出がなかったか、極く微量であったことを示唆している。現時点では、細胞培養はプラスチックシャーレ上で行なっているが、乳腺細胞の場合、細胞外基質を含むゲル上で培養すると分化が強く促進されるという報告もあるので、誘導条件に検討を加えながら研究を継続する予定である。
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