哺乳動物胚を体外で培養すると種に特有のステージで発生が停止する。この発生阻害は、ラットでは培地中のリン酸によっておきる。しかしながら、リン酸は卵管液中に存在し、エネルギー代謝やシグナル伝達系などにおいて重要な働きをしている。このラット胚のリン酸による発生阻害のメカニズムについては明らかではない。本研究では、リン酸によるラット発生阻害のメカニズムの解明を目的とした。ラット胚の細胞周期について検討したところ、発生阻害は2細胞期の後半(G2期)におきていた。しかしながら、分裂期であるM期を促進させるM-phase promoting factor(MPF)は発生阻害胚でも、正常に分割・発生する胚と同レベルの活性を有していた。M期の分裂機構や細胞の形状維持に関わっている細胞骨格について検討したところ、発生阻害胚の微小管は、紡錘体を形成せず細胞質内に粗い線維状に分布していた。発生阻害胚のマイクロフィラメントは細胞質内に顆粒状に分布し、核の周辺に分布する正常発生胚とは大きく異なる分布であった。また、呼吸等の代謝系について検討したところ、発生阻害胚では、シトクローム酸化酵素活性の異常、コハク酸脱水素酵素活性の低下、活性酸素濃度の低下がおきていた。以上の結果からラットの発生阻害胚では、主要な細胞骨格である微小管とマイクロフィラメントの動態に異常がおきていること、代謝経路にかかわる酵素の局所的な異常がおきていること等が明らかになった。
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