本研究課題は、成熟後の哺乳類の骨格筋の発達および再生の機構について、細胞レベル、分子レベルで、その解明を行うことを目的としたものである。そこで、本研究課題では、細胞レベルでのアプローチの一つとして、成熟後の骨格筋の発達、再生に中心的な役割を演ずる筋衛星細胞の家畜からの単離を、また、分子レベルでのアブローチの一つとしては、骨格筋細胞の成熟、分化に重要と考えられる、c-ski遺伝子の機能の解明をそれぞれ主なテーマとして設定した。前者については、家畜の一つであるウマからの筋衛星細胞の単離を試みた。その結果、筋細胞のマーカーであるデスミンの抗体に対して陽性を示す細胞群を成熟ウマの骨格筋から分離することができ、また、これらの細胞を培養系で分化誘導し、筋管細胞を形成させることにも成功した.そこで、次の課題として、これらの細胞についての詳細な性質を知るために、さらなる純化を行うことにした。近年発見された、EGFP(Enhanced Gr eenFluor escent Protein)は、細胞内で発現を誘導した場合、少量の紫外線照射により可視化することができる.この特性を生かして、骨格筋細胞特異的に発現するα-actinの遺伝子のプロモーター領域の制御下に、本EGFP遺伝子を繋いだコンストラクトを作製し、これをウマ骨格筋初代培養細胞に導入すれば、筋細胞のみをEGFPの発現を指標として単離できると考えた。このコンストラクトを実際に作製し、まず、比較的その培養系が確立されているマウスの筋細胞に導入したところ、当初の予想通り、筋細胞のみでEGFPが発現していることが確認された。今後は、このコンストラクトを実際に他の家畜の筋衛星細胞の単離に応用できるか否かを検討していく予定である.一方、分子レベルでのアプローチとしては、骨格筋の再生過程でその発現が誘導されるc-ski遺伝子の機能解明を目的として、ラット筋衛星細胞由来の細胞株であるL6細胞にc-skiのアンチセンスオリゴを添加し、その増殖や、分化に与える影響を観察することとした。これについては、現在、c-skiに対して、遺伝子レベル、もしくは蛋白質レベルで、その発現を阻害するようなアンチセンスオリゴを見いだすべく検討中であるが、それらの一部には、L6細胞の増殖に対して、抑制効果を示すようなものが存在していた.
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