マウス胚性幹(ES)細胞や始原生殖(PGC)細胞由来のEG細胞のように多能性を維持し、さらに次世代の子孫が得られる細胞株は、ブタをはじめ家畜では得られていない。そこで本研究では、ブタ妊娠胎仔よりPGC細胞を採取し、EG細胞株を樹立するために体外培養を試みた。また、EG細胞株が得られた場合に、同細胞のキメラ形成能を確認するためにレシピエント胚が必須であることから、ブタ卵胞卵子の体外成熟・受精および体外培養系について検討した。本研究の結果から以下の知見が得られた。1)妊娠26日齢の生殖隆起をトリプシン液やコラ-ゲナーゼ液で処理してPGC細胞を採取した場合、PGC細胞以外の体細胞の増殖が著しく、細胞懸濁液からPGC細胞のみを精製する必要があることが明らかとなった。また、PBS-EDTA液中で採取した場合、体細胞の混入は少なくなるものの、採取細胞数が減少することが明らかとなった。現在、PGC細胞の精製方法について引き続き検討中である。2)採取されたPGC細胞をLIF(白血病成長因子)、SCF(幹細胞成長因子)、bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)、TNF(腫瘍壊死因子)等の成長因子を添加した培養液中で培養した場合、PGC細胞の増殖は促進されず、また、アルカリフォスファターゼ(ALP)活性およびSSEA-1抗体陽性のES細胞様コロニーは得られなかった。現在、用いるフィーダー細胞について株化細胞およびマウスおよびブタ体細胞を用いて検討している。3)ブタ卵胞卵子の体外受精は用いる種雄ブタにより著しく影響したが、胚盤胞期まで発生させる培養系を確立することができた。また、受精卵子の体外培養における気相について検討した結果、低酸素状態で培養することにより胚盤胞期への発生率が高くなることが明らかとなった。
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