前年度は、ウシ脂肪組織とウシ脂肪前駆細胞を共培養する実験を行った結果、脂肪組織側から脂肪前駆細胞の分化を促進するパラクライン因子と抑制するパラクライン因子の両方が分泌されていることが推察された。本年度は、ウシあるいはラットの脂肪組織を培養して得た培養上清を、ウシ脂肪前駆細胞の培養にさまざまな濃度で添加し、脂肪細胞分化に及ぼす影響を検討した。ラット脂肪組織の培養上清を1%添加することにより、脂肪滴を含む細胞の数、グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)活性のいずれも無添加よりも有意に増加した。しかし添加濃度をさらに増やすとこの効果は消失し、50%の添加では逆に脂肪滴を含む細胞の数が無添加と比較して有意に減少した。培養上清の添加濃度を高めると脂肪細胞分化促進効果が消失したことから、ラット脂肪組織の培養上清に含まれる分化促進物質は、ある濃度を超えると作用しないか、あるいは培養上清中に共存する分化抑制物質が分化促進物質の作用を相殺する可能性が考えられた。また、ウシ脂肪組織の培養上清を添加した実験では、脂肪滴を含む細胞の数ならびにGPDH活性が減少するのが観察された。したがって、ラットの脂肪組織とは異なり、ウシの脂肪組織からは脂肪細胞分化を促進する物質よりも強い作用の分化抑制物質が分泌されることが示唆された。また、とくに脂肪滴を含む細胞の数に対する効果が強かったことから、脂肪細胞の分化を抑制する物質のみならず、細胞内への脂肪滴の蓄積を抑制する物質も分泌されている可能性が示唆された。
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