反芻家畜における個体レベルでの窒素の利用性を高めることは、動物によるタンパク質の生産性を向上させる点だけでなく、糞尿中への窒素の排泄を低減させる面からも重要である。固体レベルでの窒素の利用性は、消化管での消化吸収、肝臓での中間代謝、末梢組織での代謝といった組織レベルでの窒素代謝の影響をうける。本研究は、反芻家畜における肝臓でのアミノ酸代謝と尿素合成に及ぼす栄養素、特にプロピオン酸の影響について、人工栄養飼育によって栄養素の配給量を制御する手法を用いて明らかにすることを目的としている。本年度は糖原性の栄養素であるプロピオン酸の影響に関する予備的な検討として、飼料給与下の羊にグルコースを第四胃内注入する反人工栄養飼育によって、羊の体全体でのアラニンの代謝と尿素合成に及ぼすグルコース自体の影響を調べた。 グルコースを第四胃内へ注入すると、肝臓での尿素の合成量が低下し、尿中への窒素の排泄量が低下した。しかし、グルコースの注入によってアラニン窒素の体全体での代謝回転速度は増加した。グルコースの注入により尿素合成量が低下したため、アラニン窒素からの尿素合成量も低下したが、尿素に占めるアラニン由来の窒素の割合は増加する傾向にあった。これらの結果から、グルコースによって尿素合成量が低下するのは、糖新生に使われるアミノ酸が外因性グルコースによって節約されるためだけでなく、アンモニアから尿素へ移行する窒素の量もグルコースによって制御されるためと考えられた。 以上、本試験によって、胃内へ注入するグルコースにより肝臓での尿素合成や体全体でのアラニンの代謝が変動することを確認した。今後は、門脈と肝静脈に血管カテーテルを装着した人工栄養飼育羊を用い、肝臓でのアミノ酸代謝と尿素合成に対するプロピオン酸の影響を検討する予定である。
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