卵胞・卵管および子宮液中に含まれる蛋白質の多くは血液(血清)由来であり、また肝臓は血液成分の主要な産生臓器である。更に、癌細胞株は未知の成長因子を産生している可能性がある。そこで、これらの性質を兼ね備えた肝癌細胞株に着目し、培養液中に分泌される初期胚発生促進因子を探索した。ラット肝癌由来Reuber-H35細胞の無血清培養上清を調製し、胚発育促進活性の有無を検討した。得られた知見は以下の通りである。 1.未分画培養上清は透明帯からの孵化を促進すること、限外濾過膜で分画したMr<10000画分、Mr>10000画分にもその活性が存在することが示された。 2.孵化促進活性に注目して、未分画培養上清を用いて作用適期を検討した。胚盤胞または拡張胚盤胞を培養した場合、12時間以内に20%以上の卵子が完全に孵化したことから、胚盤胞期であることが予想された。 3.孵化促進因子の作用機構を推定するため、各種代謝阻害剤の効果を検討した。その結果、DNAポリメラーゼαの阻害剤であるAphidicolin、蛋白質合成阻害剤であるCycloheximide、Actinomycin D、チロジンリン酸化酵素の阻害剤であるQuercetinにより効果的にハッチングが阻害された。 4.胚盤胞を構成する細胞数は1.1-1.3倍へ増加し、特にMr>10000画分にその効果が著しく現れた。 5.RT-PCR法により、Reuber H-35細胞における既知細胞成長因子mRNAの発現を検討したところ、EGF、TGFαおよびTGFβ1 mRNAの発現が確認された。
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