既に当研究室で分離に成功しているアジアのマカク属サルのSTLV-Iについて、その遺伝子塩基配列の一部を決定し、それに基づき分子進化系統樹を作成したところ、アフリカのSTLV-IやHTLV-Iに比べて、アジアのSTLV-Iはいずれも長い枝を形成しており、ベニガオザル、マウラモンキーのSTLV-Iは独立してクラスターを形成したが、ボンネットモンキー、ブタオザル、カニクイザル、アカゲザル、ニホンザル、タイワンザルのSTLV-Iは住んでいる地域や種で分かれるようなクラスターを形成することはなかった。インドネシア産のオランウータンについては、血清学的に5検体のSTLV-I陽性を現在までに見つけているが、今回新たに3つのSTLV-I陽性検体を検出した。そのうちの1検体についてウイルス株の遺伝子解析を行ったところ、今までに我々が報告している株と非常に類似し、1クラスターを形成することがわかった。一方、昨年までに陽性であった検体のうち1つを新たに解析したところ、これまでに解析したオランウータンのSTLV-Iのクラスターと離れたものであった。我々のこれまでの解析からオランウータンのSTLV-Iは、非常に変異を蓄積をしたウイルスである事がわかっているが、さらに2つのクラスターを形成することが明らかになった。これらのオランウータンやアジアのマカク属のSTLV-IはHTLV-Iの3つのグループの中で最も変異を蓄積したMelanesianグループとは、系統樹上で同じような分岐パターンを示すが、それほど類似していなかった。この事からメラネシア周辺に存在するHTLV-I変異株の起源をオランウータンとするのは考えにくいが、Melanesianグループは明らかにアジアのSTLV-I種に類似するので、オランウータンも含め、より多くのSTLV-I株を様々なサル種から分離し解析する必要があると思われる。
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