研究概要 |
「Na^+,K^+-ATPaseのイオン輸送機構において、イオンセンサーがイオン輸送ドメインに直接相互作用することによりイオン通過孔開閉を調節する」という分子内ドメイン作業仮説の証拠を得るために、次に上げるNa^+とK^+のセンサーを装備したキメラATPaseを作製した。キメラATPaseの命名法としては、ニワトリNa^+,K^+-ATPaseαサブユニットおよびSERCA-ATPaseを、リン酸化部位とFSBA結合部位を用いて3分割し、それぞれの領域を大文字のNまたはCで表記する。したがって野性型Na^+,K^+-ATPaseαサブユニットはNNNと、野性型SERCA-ATPaseはCCCと表示する。また、これら3領域をさらに細分割した場合、それぞれの領域を小文字のnまたはcで表記する。作製したキメラATPaseは、[nn/n]C[n/n/n]、[nn/c]C[c/n/n]、[dn/n]N[n/n/n]、[nn/n]N[n/n/c]の4つである(ウアバイン結合ドメインはnで、Na^+センサードメインはnで、K^+のセンサードメインはnで、βサブユニットとのアセンブリードメインはnで、Na^+センサードメインを切除している場合は、dnと表記している)。また、ニワトリNa^+,K^+-ATPaseのウアバイン結合ドメインは、ウアバインに対して高親和性結合を示すため、作製したすべてのキメラATPaseのウアバイン結合ドメイン内には、2個のアミノ酸点変異(T115R,N126D)を施すことによりウアバイン低親和性型に変換し、発現用のホスト細胞であるHeLa細胞に内在するヒト型Na^+,K^+-ATPaseのウアバイン高親和性型と区別出来るように工夫した。 [nn/n]C[n/n/n]キメラATPaseをHeLa細胞にステイブルに導入発現した細胞を樹立した後、Na^+,K^+-ATPase活性と^<86>Rb^+取り込み活性を測定した結果、[nn/n]C[n/n/n]キメラATPaseが、ウアバイン低親和性のNa^+,K^+-ATPase活性と^<86>Rb^+輸送能を有することが明らかとなった。本結果より、Na^+,K^+-ATPaseの触媒ドメインがK^+イオン輸送に関与しないことが初めて明らかとなった。現在、Na^+とK^+イオン輸送の機能発現に必要な最小機能ドメインを決定すべく、さらに研究を進めている。
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