消化物と共に十二指腸に流入する酸や消化酵素に対する防御機構として、十二指腸粘膜を被うアルカリ粘液層が重要であることはよく知られている。しかし、十二指腸腺を支配する神経伝達物質およびホルモン支配に関しての知見は乏しく、さらにその細胞内機構に関しては検討した報告さえ存在しない。本研究では発達した十二指腸腺を持つブタ由来の分離十二指腸腺腺房を作製し、Fura2を用いた〔Ca^<2+>〕i測定とパッチクランプによるチャネル電流の解析を行い、以下の成績を得た。 A 十二指腸腺腺房の細胞内Ca^<2+>濃度の画像解析 分離十二指腸腺腺房はアセチールコリン(ACh)の濃度依存性(10^<-7>〜10^<-5>M)に反応して、細胞内Ca^<2+>濃度(〔Ca^<2+>〕i)を増加させた。静止時には〔Ca^<2+>〕iの変動はなく、AChに対する反応も時間経過の早い相性の増加で、その上に乗る微小なCa^<2+>オッシレーションが観察されるに過ぎなかった。AChの反応はpirenzepineやmethoctramideでは影響されず、4-DAMPで消失したことより、M3受容体を介したものであると考えられる。AChによる〔Ca^<2+>〕i上昇は外液からのCa^<2+>除去では殆ど影響を受けず、タプシガルギンの前処置でほぼ消失したことから、細胞内ストアからのCa^<2+>放出が主要なCa^<2+>動員経路であることが示唆される。Ca^<2+>誘発性Ca^<2+>放出(CICR)を刺激するカフェインは全く影響しなかった。 伝達物資候補(NOR、VIP、SP、 motilin、neurotensin、ATPなど)およびホルモン(secretin、cholecystkinin-8)の腺房細胞内Ca^<2+>動態に及ぼす影響を観察した結果、SPのみが〔Ca^<2+>〕i上昇を起こした。SPの反応は外液からのCa^<2+>除去では殆ど影響を受けなかった。 B 十二指腸腺腺房細胞の膜電流解析 パッチクランプ法による全細胞膜記録を行った。その結果、電位依存性Ca^<2+>チャネルや非選択性陽イオンチャネルによる電流は観察されなかった。しかし、保持電位0mVでAChにより外向き電流が観察された。また、同時に与えた傾斜波による外向き電流の若干の増加が生じた。保持電位0mVで、イノシトール3リン酸(IP3)の入ったピペットで全細胞記録を行ったところ、AChと同様の一過性の外向き電流が生じた。これらの成績はブタ十二指腸腺おそらく〔Ca^<2+>〕iにより活性化されるK+チャネルが存在し、AChは細胞内ストアからIP3を介して〔Ca^<2+>〕iを放出させることによりこのチャネルを刺激することが考えられる。
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