本研究ではトリの神経膠腫の本態を明らかにするため、自然発生例の病理学的研究と本疾患の伝播性について検討を行った。得られた成果は以下の通りである。1.本疾病の病理学的特徴は多病巣性結節と散在性の非化膿性髄膜脳炎であり、欧米で報告されているトリの神経膠腫と一致した。この症例は国内における初発例である。2.結節内の細胞は活発な細胞増殖活性を示し腫瘍性の性格を持っていた。3.結節は神経膠性間葉性混合腫瘍であった。4.結節内のアストロサイトおよび間葉細胞はavian leukosis/sarcoma virus(ALSV)の共通抗原(glycoprotein 85)を保有していた。5.電子顕微鏡下で結節内増殖細胞の細胞質内にレトロウイルス様粒子とその発芽像を認めた。6.ELISA法によって血清学的に病原因子として疑われていたトキソプラズマ症の関与は否定された。7.PCR法によってマレック病ウイルスの関与は否定された。8.同居鶏72羽7品種のうち、チャボにのみ神経膠種が発症しており、品種によって本疾患に対する感受性は異なることが示唆された。9.同居チャボ17羽中5羽に神経膠腫が認められた。10.罹患鶏5例のうち2例には腎芽腫が併発していた。また、17羽全てに既知の疾患とは異なる全身性リンパ球増殖性疾患が存在していた。11.罹患鶏の脳乳剤を初生チャボに脳内接種すると70日目には60%の発生率で同質の結節が形成され、140日目には接種鶏全例に発生を認めた。12.伝播した病変は脳室周囲に存在する傾向が見られた。13.実験感染例には初期病巣と思われる、炎症性病巣が散在していた。14.初発例の種鶏にあたる別の施設のチャボやいくつかの品種に同様の神経膠腫が発生していた。以上の成績から、トリの神経膠腫の病理像は神経膠性間葉性混合腫瘍であり、本疾患は実験的に伝播すること、その原因としてALSVが関与することが強く示唆された。
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