Yersinia enterocolitica 血清型0:8菌(以下、0:8菌)の我が国における浸潤状況を明らかにする目的で、現在までに本菌感染患者の発生が認められている南限である福島県ならびに同県に隣接する新潟県および栃木県において、野生げっし類等を捕獲し本菌の保有状況を検討した。1997年7月-1997年9月の3ヶ月間に、福島・栃木・新潟県の山間部の計4地域で捕獲した野生げっし類78頭(アカネズミ31頭、ヒメネズミ47頭)ならびに食虫類20頭(ヒミズ19頭、モグラ1頭)の計98頭から腸管内容物と血液を採取し、0:8菌の分離と0:8菌に対する血中抗体価の測定を行った。その結果、Yersinia属菌は、野生げっし類4頭(5.1%)、食虫類1頭(5.0%)から分離された。また、Yersinia属菌の分離率は捕獲地域により差は認められなかった。しかし、分離されたYersinia属菌はY.intermediaが2株、Y.aldovaeが3株で、0:8菌は分離されなかった。また、プロテインGを用いたELISAにより、0:8菌に対する血中IgG抗体価を測定したが、抗体価が陽性の検体は認められなかった。これらのことから、今回の調査地域においては0:8菌は野生げっ歯類に侵淫していない可能性が示された。しかし、本菌が野生げっし類に広く侵淫している青森県津軽地方に比べ、今回調査した地域では捕獲した野生げっし類からのYersinia属菌全体の分離率が著しく低く、また保菌と深い関連を有すると考えられている繁殖時期も異なっていたことから、本菌が分離されなかった理由として捕獲時期の問題も考えられるため、現在、さらに継続して調査中である。
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