Yersinia enterocolitica血清型0:8菌(以下、0:8菌)の我が国における浸潤状況を明らかにする目的で、1997年7月-1998年11月に、現在までに本菌感染患者の発生が認められている南限である福島県ならびに同県に隣接する新潟、山形および栃木県において、自然界において本菌の主たるレゼルボアと考えられている野生げっし類を捕獲し本菌の保有状況を検討した。福島・新潟・山形および栃木県下の山間部計8地域で捕獲した野生げっし類129頭(アカネズミ46頭、ヒメネズミ81頭およびハタネズミ2頭)ならびに食虫類22頭(ヒミズ21頭、モグラ1頭)の計151頭の腸管内容物から0:8菌の分離を行った結果、0:8菌は1998年9月に山形県小国町で捕獲したヒメネズミ1頭から分離された。この成績と今までの知見から、本菌は青森から山形、さらに新潟に至る東北地方の山地に生息る野生げっし類に広く分布しているものと思われた。また、0:8菌感染患者が多発する青森県でヒトおよびノネズミから分離された0:8菌をRandom Amplified Polymorphic DNA(RAPD)法を用いて染色体DNAの遺伝型別を行ったところ、RAPDパターンはノネズミ由来48株は全て同じであったのに対し、ヒト由来29株はノネズミでみられるパターンを含む3パターンに型別された。そこで、ノネズミ以外のヒトへの感染源を探る目的で、青森県におけイヌおよびブタにおける本菌に対する抗体の保有状況を検討した。その結果、調査したイヌ85頭中14頭(16.5%)およびブタ303頭中80頭(26.5%)が本菌に対する抗体価が陽性であった。これらのことから、本菌は青森県で飼育されているイヌやブタに広く浸淫し、本県においてはノネズミ以外にもイヌやブタがヒトへの重要な感染源になっている可能性が示された。
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