インフルエンザA型ウイルスの持つ糖蛋白質の感染細胞上への発現に対する糖鎖修飾阻害剤の影響を検討した。実験にはH1型の赤血球凝集素(HA)およびN8型ノイラミニダーゼ(NA)を持つ遺伝子再集合ウイルスNWS-N8を用いた。これまでの研究によって糖鎖の付加を阻害する薬剤であるツニカマイシン処理は、ウイルス感染細胞上でのウイルスHAの発現は影響が低いのに対して、NAの発現が抑制されることが明らかになっている。今回の実験では、糖鎖の修飾阻害剤であるカスタノスペルミン(CST)処理によっても、同様にHAの発現とNAの発現に対する異なった影響が認められた。すなわち、CST処理後のウイルス感染細胞の細胞表面上に発現されるHAおよびNA蛋白質量をそれぞれの蛋白質に特異的な単クローン性抗体を用いたFACS解析によって定量したところ、HA蛋白質の細胞表面での発現量はCST処理によってほとんど影響を受けなかったのに対して、NAの発現量は未処理ウイルス感染細胞の50%にまで減少した。また、感染細胞を用いた間接蛍光抗体法によっても、同様の傾向が観察された。さらに、ウイルス感染細胞をCST処理した後の培養上精中に表れる嬢ウイルス量を定量したところ、CST未処理細胞に比べ、嬢ウイルス産生量が十分の一に減少していることが明らかになった。以上の研究結果によって、インフルエンザウイルスのN8型NAは感染細胞の膜表面への発現にN一結合型糖鎖の修飾が重要な役割を果たしていること、またCST処理によってウイルス産生量が減少することが明らかになった。
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