本研究では家族性てんかん家系犬のてんかん発生メカニズムの解明を最終目的とし、これまで以下の結論を得た. 1. 本家系犬6例に対して国際式10-20誘導法による脳波検査を幼齢時より経時的に実施した結果、発作初期にはspikeおよびsharp waveが前頭葉優位に確認され、発作を長期間反復した症例では、程度に差はあるもののそれらが頭頂葉および後頭葉にも検出された.よって、てんかんの焦点は最初は前頭葉にあり、てんかん発作を反復するうちに発作の焦点が広汎性になることが示唆された.病理学的検索の結果、急性神経細胞壊死およびグリオーシスが前頭葉皮質に高頻度に認められた. 2. 興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸を処理する働きのある、アストロサイト独自の酵素であるグルタミン合成酵素(gultamine synthetase、以下、GS)の発現状態を免疫組織学的に検索した結果、本家系犬の大脳のアストロサイトのGS発現は、対照例に比し明らかに低下していた。よって、本家系犬ではアストロサイトのGSの合成機能が低下しており、それによってグルタミン酸が過剰になることによりてんかんが惹起される可能性が示唆された. 3. アストロサイトにおけるアポトーシスを確認する目的でIn situ Apoptosis Detection Kitを用いた組織学的検索(TUNEL去)を実施した結果、本家系犬の大脳の一部のアストロサイトがTUNEL陽性(アポトーシス)を示した。しかしながら、本例の大脳のアポトーシスを示すアストロサイトの数が対照例のそれに比し、明らかに多いという結論は得られなかった。 今後はマイクロダイアリーシス法などにより、in vivoにおける神経伝達物質(興奮性および抑制性)の異常の有無を検討し、本例のグルタミン酸などの代謝異常を詳細に検討する必要がある。
|