ボルナ病は元来中央ヨーロッパのウマなどの引き起こされる致死性脳炎症として報告されていたが、最近になってその原因ウイルスがヒトにも感染しており、さらに何らかの精神性疾患に関与している可能性が報告された。本研究ではわが国におけるボルナ病の浸淫実態をウイルスの人畜共通感染性に焦点を絞り解明することを目的とし、本研究年度は動物、ヒトに対する疫学調査を実施し、以下の成績を得た。 (1)過去に私たちが確立したボルナ病ウイルス特異抗体測定法(抗原サンドイッチ法ELISA)を用いて、健康馬301例、動物病院に来院した猫132例について特異抗体を検索したところそれぞれ3例(1.0%)、2例(1.5%)の陽性率が認められた。 (2)動物病院に来院した犬84例については全て特異抗体陰性であった。 (3)ヒト精神性疾患患者116例、慢性疲労症候群患者20例では全て特異抗体陰性であった。 (4)ヒト献血者102例では1例が特異抗体陽性と判定された。 (5)別のヒト献血者グループ70例の末梢血単核球中のウイルスRNAの存在をNested RT-PCRで調べたところ、全て陰性であった。 これらの成績より、わが国においてもボルナ病ウイルス感染は存在しているが、その浸淫度は低いことが考えられた。しかし地域差があることは予想される。ウイルスの人畜共通感染性を証明するためには、高い陽性率を示す地域での疫学調査が必要とされる。 今回の調査ではボルナ病ウイルス感染とヒト精神性疾患、慢性疲労症候群との関連性は認められなかった。
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