研究概要 |
本研究の目的は,糖輸送体遺伝子を遺伝子工学的手法によって改変し極性を持つ上皮細胞(MDCK細胞)に導入発現させ,その挙動をレーザー共焦点顕微鏡法等で観察し,糖輸送体分子の細胞内局在機構を解明することである.レーザー共焦点顕微鏡では,蛍光標識した分子以外の構造をみることができないため的確な対比染色が必要となる.本研究では,糖輸送体分子が頂部あるいは基底側壁部のどちらの細胞膜ドメインに局在するのかが問題となるため,これを明確に見分けられる対比染色として,タイトジャンクションの構成タンパク質であるオクルジンの蛍光抗体染色と細胞核の蛍光染色を試みた.レーザー共焦点顕微鏡での細胞核の対比染色に適した色素を得るために,21種類の核酸特異的蛍光色素について,蛍光特性,DNA特異性,退色特性,退色防止剤の有効性などを調べた.細胞核染色色素としてTO-PRO-3を用いることによって,糖輸送体分子,オクルジン分子,細胞核の局在が立体的に解析できるようになった.この手法を用いてSGLT1遺伝子を導入したMDCK細胞を観察したところ,発現したSGLT1は細胞が密集した状態では頂部細胞膜に限局していたが,細胞がまばらなところでは細胞膜全域に局在していた.隣接する細胞との間のタイトジャンクションは細胞層の自由な溶液の通過を妨げるバリヤ-としての機能だけでなく,頂部細胞膜と基底側壁部細胞膜を隔てる機能を持つと考えられており細胞極性形成に重要な役割を果たす.そこで,細胞密集過程におけるSGLT1の発現とタイトジャンクションの構成タンパク質であるオクルジンの局在を同時に観察した.その結果,SGLT1はタイトジャンクションのフレームワークができあがる前は細胞膜全域に局在し,フレームワークが完成した後に初めて頂部細胞膜に限局するようになることが明らかになった.この結果は,SGLT1の頂部細胞膜への選択的細胞膜移送機構は,細胞極性形成に伴い機能し始めることを示唆している.
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