ラット下垂体前葉の性腺刺激ホルモン産生細胞における分泌顆粒の構成には明瞭な雌雄差が存在する。この雌雄差を決定する分子機構を明らかにするために、まず本年度は、同細胞の分泌顆粒中の蛋白で、未だにその生理的役割が解明されていないグラニン蛋白群に注目して、雌雄の性ステロイドホルモン持続投与によってこれら蛋白の発現量および細胞内局在がどのような影響を受けるか、ノザンブロット法及び免疫組織化学法で検討した。 その結果、雌性ステロイドホルモンであるエストラジオールを持続投与すると、グラニン蛋白のうちクロモグラニンA(CgA)の下垂体における発現が強く抑制され、その結果、大型分泌顆粒が同細胞内から消失した。逆に、雄性ステロイドホルモンであるテストステロンを持続投与した場合には、CgAの発現が維持され、同細胞にCgA単独陽性の大型分泌顆粒が観察された(結果は研究業績欄の論文(1)(2)(3)および第103回解剖学会総会(1998年3月、大阪)で発表。)。 以上の実験結果は、CgAの発現が同細胞における大型分泌顆粒の維持に重要であり、さらにこのCgAの発現量は雌雄の性ステロイドホルモンによって対照的な制御を受けていることを示唆している。この実験結果は、同細胞で観察される微細構造上の雌雄差と良く合致していた。 平成10年度にはさらに、これらの研究結果を踏まえて、雌雄の性ステロイドホルモン持続投与によって下垂体前葉で特異的に誘導あるいは抑制される他の蛋白遺伝子を探索し、それらのうち同細胞における分泌顆粒形成に関与するものの同定を試みる予定である。特にテストステロン投与によって同細胞の分泌顆粒構成が雄に特徴的なものになるとき、グラニン蛋白のうちCgAは同細胞の大型分泌顆粒に、セクレトグラニンII(SgII)は小型分泌顆粒に、それぞれ分かれて局在するようになるが、この選別輸送機構を維持する因子をこの解析によって明らかにしたい。
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