ラット下垂体前葉の性腺刺激ホルモン産生細胞における分泌顆粒の構成には明瞭な雌雄差が存在する。本研究課題では、この雌雄差を決定する分子機構及び同細胞における分泌顆粒形成機構を明らかにすることを目的として、雌雄の性ステロイドホルモン持続投与動物モデルを解析した。 まず平成9年度には、同細胞の分泌顆粒中の蛋白で、未だにその生理的役割が解明されていないグラニン蛋白群に注目して、これら蛋白の発現量および細胞内局在が性ステロイドホルモン持続投与によってどのような影響を受けるか、ノザンブロット法及び免疫組織化学法で検討した。 その結果、雌性ステロイドホルモンであるエストラジオールを持続投与すると、グラニン蛋白のうちクロモグラニンA(CgA)の下垂体における発現が強く抑制され、その結果、大型分泌顆粒が同細胞内から消失した。逆に、雄性ステロイドホルモンであるテストステロンを持続投与した場合には、CgAの発現が維持され、同細胞にCgA単独陽性の大型分泌顆粒が観察された。以上の実験結果は、CgAの発現が同細胞における大型分泌顆粒の維持に重要であり、さらにこのCgAの発現量は雌雄の性ステロイドホルモンによって対照的な制御を受けていることを示唆している。この実験結果は、同細胞で観察される微細構造上の雌雄差を分子レベルで良く説明するものと思われた(研究業績欄・論文(1)(2)(3))。 平成10年度からは、さらに、これらの性ステロイドホルモン持続投与動物で下垂体前葉で特異的に誘導あるいは抑制される他の蛋白遺伝子の同定を進めている。特にテストステロン投与によって同細胞には大型及び小型の2種類の分泌顆粒が出現し、グラニン蛋白のうちCgAは大型分泌顆粒に、セクレトグラニンII(SgII)は小型分泌顆粒に、それぞれ分かれて局在するようになるが、この選別輸送機構を維持する因子を現在探索中である。
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