研究概要 |
複雑な脳神経系において機能的な神経回路を形成するためには、神経軸索の正確な標的への投射が必須である。この正確な軸索投射においては、軸索先端の成長円錐が重要な役割をしている。成長円錐伸展抑制分子としてcollapsin-1が同定された。現在までにcollapsin-1は神経培養系及び発現様式の解析により、神経軸索の抑制性ガイド分子であることが示唆されている。しかし、生体内で実際にcollapsin-1がどの神経回路形成に関与しているのかについてはわかっていないので、collapsin-1欠損マウスを作製し、生体内でのcollapsin-1の機能を明らかにすることを目的とした。 collapsin-1欠損マウスは成長して交配可能であり、また、体が野生型と比べて小さい(離乳時で、体重が約半分)という特徴がある。collapsin-1欠損マウス胚を抗ニューロフィラメント抗体で染色した。その結果、collapsin-1欠損マウスの10.5日胚では、脳神経において、三叉・顔面・舌咽・迷走・副神経の走行異常が認められたが、動眼神経では認められなかった。このことより、collapsin-1は実際に生体内で抑制性のガイド分子であり、また選択性があることが分かった。12.5日胚では、顔面の三叉神経の走行の乱れが観察され、目のレンズにまで神経軸索が入り込んでいた。また、collapsin-1は軟骨に発現しており、欠損マウスでは軟骨に向かって脊髄神経が伸びていることより、以前から知られている軟骨に神経が向かわない現象が、collapsin-1によるものであることが明らかとなった。しかし、DiIを用いたcollapsin-1欠損マウス胚の脊髄への求心性線維の投射の解析では投射の異常が認められなかった。(Taniguchi et al.,1997)
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