多細胞標本を用いた実験系において、低酸素またはアシドーシス条件を作成し、その条件下での細胞内Ca濃度変化(Ca transient)及び収縮張力の標本伸長による修飾につき検討を行った。低酸素下では、標本伸長直後の収縮増大には有意な変化が認められなかったが、引き続き起こるゆっくりとしたCa transientと収縮張力の増大は有意に低下した。一方、アシドーシス条件下では、標本伸長直後の収縮増大は増加傾向を示したのに対し、ゆっくりとしたCa transientと収縮張力の増大には有意な変化は認められなかった。以上より、虚血時には、伸長刺激による心筋収縮力変化が修飾されている可能性が示唆された。 単一心室筋細胞を用いた実験系では、細胞伸長により活性化されるとされているstretch-activated channel(SAC)の阻害剤として広く用いられているガドリニウム(Gd)の細胞膜電流に対する効果につき検討を行った。これまでに、Gdは心室筋細胞のL型Ca電流を濃度依存性に抑制することが報告されており、今回我々はGdのK電流に対する効果を検討した。モルモット心室筋細胞にホールセルパッチクランプ法を適用して遅延整流K電流(Ik)を測定し、これに対してGdを細胞外より与えたところ、濃度依存性にIkの減少が認められた。この結果及び以前のL型Ca電流の報告より、GdをSACの阻害薬として用いる際には、K電流やCa電流の抑制による影響も考慮する必要性があることが示唆された。
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