本研究は、血管内皮細胞由来弛緩因子の一つである内皮細胞由来過分極因子(EDHF)の本体およびその標的イオンチャネルの同定を目的に開始した。まず、EDHFの標的イオンチャネルに関しては、EDHFによる膜電位過分極反応が高K^+溶液により減弱し、低K^+溶液により増強したことから、K^+ channelであることが推定され、また非特異的なK^+channel阻害薬であるtetrabutylammoniumがEDHF反応を抑制することからもこの事が裏付けられた。ATP sensitive K^+ channel阻害薬であるgkibenclamideはEDHF反応に影響を与えず、また、large conductance Ca^<2+>-activated K^+ channelの阻害薬であるtetraethylammoniumないしcharybdotoxinおよびNa^+/K^+-ATPase阻害薬であるouabainもEDHF反応に影響を与えなかった。唯一阻害作用を示したのはsmall conductance Ca^<2+>-activated K^+ channel(SK)の阻害薬であるapaminであった。則ち、ラット腸間膜動脈におけるEDHFの標的イオンチャネルとしては、SKあるいはそれに類似したK^+ channelであることが推定された。更に、EDHFの標的イオンチャネルをより明確に検討するために、EDHFのbioassay系の確立を試みた。ビーズに培養した血管内皮細胞(ヒト臍帯内皮細胞ならびにウシ大動脈内皮細胞)をbradykininなどにより刺激しEDHFを放出させ、下流の血管平滑筋細胞の膜電位変化を指標にEDHFのbioassayを試みたが、非常に不安定で、再現性ある結果を得るのは困難であった。また、血管の弛緩反応と膜電位変化を同一の血管で同時に測定する実験を試みたが、技術的に非常に困難で、安定した実験結果を得るのは困難であった。
|