申請者らは、アストロサイトに対する細胞増殖因子の同定を目的に、アストロサイトに発現しているレセプターチロシンキナーゼをdegenerative primersを用いたRT-PCR法によって検索していたが、その過程において、アストロサイトにAx1とTyro3が発現している事を見出した。そこで、アストロサイトに対するプロテインSとGas6の作用を調べたところ、血清、エンドセリン-1、basicFGFなどの増殖因子による増殖をむしろ抑制するという事が明らかになった。また、培養アストロサイトにscratchによる傷害を施したモデル(scratch-injuryモデル)およびラット脳を用いた凍結損傷モデルを用いた実験で、損傷周辺部位において、プロテインSおよびAx1のmRNAの発現が大きく増強されている事がわかった。Scratch-injuryモデルや凍結損傷モデルにおいては、損傷部位において急激なアストロサイトの増殖がおきている。しかもプロテインSを作用させると、この損傷部位におけるアストロサイトの増殖を抑制するという事がわかった。こうしたことから、プロテインS/Gas6およびAx1/Tyro3はアストロサイトの増殖の制御に関与しており、とくに、脳損傷後のグリオーシスの抑制に関係している可能性があると考えられる。9年度は、アストロサイトにおける細胞生物学的な作用を明らかにするために、初代培養アストロサイトを用いてプロテインSおよびGas6の作用における細胞内情報伝達系をあきらかした。両者ともMAPキナーゼの1つであるErkの活性を上昇させることが明らかになった。また、Ax1とTyro3のcDNAをそれぞれ単独あるいは組み合わせてCHOまたはCOS7に発現させ、プロテインSおよびGas6で刺激した場合の情報伝達系を解析することによって、Ax1とTyro3が、レセプターとしての機能・役割分担をしていることが明らかになった。
|