今年度行った研究による得られた成果は大きく2つに分けられる。一つはcyclicAMPの測定技術の改良である。特殊心筋および一般心筋においてphosphodiesterase活性の分布密度にいかなる差異が存在するかを明らかにするために、まず酵素蛍光法によるcyclicAMPの測定技術を改良し、心筋局所の微量検体中のcyclicAMP分解速度としてのphosphodiesterase活性を測定できるレベルまで感度を向上させた。この作業に必要な蛍光分光光度計などの設備は既に当研究室に設置されていたので、必要な消耗品を今年度の科学研究費により購入した。もう一つは、組織化学的手法を応用することにより刺激伝導系の組織を単離したことである。イヌの心臓を摘出し、ただちにドライアイスで-80度に保ったchlorodifluoromethane内で瞬間凍結した。厚さ20ミクロンの薄層切片を作製し、刺激伝導系を同定するために10枚おきに1枚に対しacetylcholineesterase染色を行なった。残りの9枚は真空凍結乾燥し、染色標本を指標にして、洞房結節、右心房、房室結節、ヒス束、左心室を実体顕微鏡下で切り出し心筋膜標本を作製した。真空凍結乾燥に必要な機材を今年度の科学研究費により購入した。来年度以降、この膜標本を用いて房室結節中のphosphodiesterase活性を測定する予定である。また、最近臨床応用された心不全治療薬であるphosphodiesteraseIII阻害薬の薬効評価および作用の部位選択性も検討する予定である。
|