NAT1は我々が最近同定した蛋白質翻訳の阻害因子であり、その機能異常が癌化につながる可能性が示唆されている。今回の研究の目的は、このNAT1の生体内での機能と発癌への関与をその遺伝子のノックアウトマウスを作製することにより解明することである。この目的のために、我々はまず、マウスNAT1遺伝子の構造を解析した。NAT1遺伝子は19個のエクソンよりなり、このうち第2エクソンに開始コドンが存在することが明らかとなった。そこで、この第2エクソンをネオマイシン耐性遺伝子と置換するためのターゲティングベクターを作製した。このベクターをES細胞に導入した結果、相同組換体を得た。さらに、この相同組換ES細胞をマウスの胚盤胞に注入し、キメラマウスを得た。ES細胞は生殖細胞系にも寄与し、ヘテロ変異マウスが確立された。NAT1遺伝子のヘテロマウスは、外観上正常であり、生殖機能にも異常は無かった。一方、ヘテロ変異マウス同士を交配させ、ホモ変異マウスの確立を試みたが、誕生した100匹異常のマウスは全て野生型又はヘテロ変異型であった。このことはNAT1がマウスの発生に必須であることを示す。現在、NAT1の発生における役割を解析するとともに、野生型及びヘテロ変異型の胎児より分離した線維芽細胞を比較することにより、NAT1の細胞レベルでの機能を検討している。
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