シグナル伝達を担うキナーゼの細胞内における活性測定法の開発と応用

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09770068
• 研究機関: 愛知県がんセンター
• 研究代表者: 稲垣 直之 愛知県がんセンター, 生化学部, 室長 (20223216)
• キーワード: シグナル伝達 / イメージング / 細胞内小器官 / CaMキナーゼII / リン酸化抗体 / ビメンチン / Cdc2キナーゼ / グリア

研究概要

1)カルシウムとCaMキナーゼIIによるシグナル伝達の同一細胞での活性測定法の開発
申請者は、これまでに細胞骨格蛋白質ビメンチンSer82のリン酸化をモニターするモノクローナル抗体を作製し細胞内のCaMキナーゼIIの活性を測定する方法を確立している。今回、この方法とカルシウム顕微鏡を組み合わせることにより同一細胞におけるカルシウムとCaMキナーゼIIによるシグナル伝達を可視化することに成功した。その結果、細胞外刺激の強さや方向によって決まるカルシウムシグナルの細胞内分布がCaMキナーゼIIによるビメンチンリン酸化の細胞内分布を限定することがわかった(J.Bid.Chem.272,1997,25195)。これは、カルシウムシグナルが細胞内において空間的な情報として下流分子に伝わることを示すデータであり、細胞外刺激や強さと方向によって細胞内ビメンチンの構築が部位特異的に調節されることを示唆する。
2)Cdc2キナーゼによるビメンチンリン酸化のモニターを応用した発生脳における分裂グリア細胞の同定 ビメンチンは胎生15日から生後15日のラット脳においてグリア細胞に特異的に発現しニューロンでは認められない。また、Cdc2キナーゼは分裂細胞に特異的に活性化される。申請者はこれを応用し、Cdc2キナーゼによってリン酸化されたビメンチンを特異的に認識するモノクローナル抗体を用いて発生脳における分裂グリア細胞の同定に成功した(Glia,in press)。その結果、大脳皮質ではグリア幹細胞であるラディアルグリアが脳室周囲層で最終分裂を終え、その後、上層部へ移動し分化してゆくグリア細胞はもはや分裂を行わないことが明らかとなった。一方、小脳ではラディアルグリア細胞に加えて、上層部へ移動し分化してゆくグリア細胞、さらには最終分化型グリア細胞までが細胞分裂を繰り返すことがわかった。

研究成果

• [文献書誌] Inagaki,N.et al.: "Spatial patterns of Ca2+ signals define intracellular distribution of a signaling by Ca2+/calmodulin-dependent protein kinase II" J.Biol.Chem.272. 25195-25199 (1997)
• [文献書誌] Inagaki,N.et al.: "Miosin binding subunit of smooth muscle myosin phosphatase at the cell-cell adhesion sites in MDCK cells" Biochem.Biophys.Res.Commun.230. 552-556 (1997)
• [文献書誌] Inagaki,M.et al.: "Phosphorylation-dependent control of intermediate filament structure : a novel approach using site-and phosphorylation state-specific antibodies" J.Biochem.121. 407-414 (1997)
• [文献書誌] Meijer,L.et al.: "Biochemical and cellular effects of roscovine,a potent and selective inhibitor of the cyclin-dependent kinases cdc2,cdk2 and cdk5" Eur.J.Biochem.243. 527-536 (1997)
• [文献書誌] Matsuzawa,K.et al.: "Domain specific phosphorylation of vimentin and glial fibrillary acidic protein by PKN" Biochem.Biophys.Res.Commun.234. 621-625 (1997)
• [文献書誌] Ito,M.et al.: "Interaction of smooth muscle myosin phosphatase with phospholipids." Biochemistry. 36. 7607-7614 (1997)
• [文献書誌] Kamei,Y.et al.: "Visualization of mitotic radila glial lineage cells in the developing rat brain by cdc2 kinase-phosphorylated vimentin" Glia. (in press). (1998)
• [文献書誌] Takizawa,N.et al.: "Alterations in type-1 serine/threonine protein phosphatase PP1a in response to B-cell receptor stimulation" J.Biochem.122. 730-737 (1997)
• [文献書誌] Matsuzawa,K.et al.: "Intermediate Filaments,Hermann H.and Harris J.R.(eds.)" Plenum(in press), (1988)