NMDAレセプターはシナプス伝達の長期増強(LTP)に必須なイオンチャンネルであり、脳における主要なチロシンリン酸化蛋白の一つである。本研究ではNMDAレセプターのサブユニットの一つ、NR2Bについてそのチロシンリン酸化部位の同定を試みると共に、脳の不溶性画分においてNMDAレセプターと共にもっとも豊富なチロシンリン酸化蛋白であるp120についての解析を行なった。 NR2Bのチロシンリン酸化部位は、大腸菌で生産した組み換え蛋白を基質として、マウス脳のライセ-トより調製したFynチロシンキナーゼを用いて試験管内でリン酸化反応を行なうことにより決定した。組み換え蛋白としては、NR2Bの細胞質部分、約600アミノ酸を前半部分と後半部分に分け、さらに後半部分はC末端を含み長さの異なる複数の蛋白として作製した。これらのうち、C末端部分を含む組み換え蛋白が最も強くリン酸化された。また最もC末端近傍に存在するチロシン残基をリン酸化されないフェニルアラニンに置換した分子はFynにより全くリン酸化されなかった。これらのことから、C末端近傍のチロシン残基がリン酸化部位である可能性が高いと考えられた。 チロシンリン酸化蛋白p120については、マウス脳の不溶性画分より抗リン酸化チロシン抗体による精製を行なった。また精製の過程で、p120はNR2BのC末端とも結合する能力があり、実際に生体内でNMDAレセプターと会合していることも見い出した。現在、このチロシンリン酸化蛋白について、抗体の作製および機能の解析を進めている。
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