研究概要 |
1.研究の背景 プロテインホスファターゼ2A(PP2A)は真核生物に広く分布し,代謝調節,細胞内情報伝達,細胞周期,細胞分化など様々な細胞機能において重要な役割を担っている。PP2Aは,触媒サブユニットC(34kDa)と調節サブユニットA(63kDa)とが結合した二量体,あるいはこれに第3のサブユニットが結合した三量体として存在する。第3のサブユニットにはB(54kDa),B'(54kDa),δ(74kDa),PR72(72kDa)などが存在する。私達はヒト赤血球によりδサブユニットを見いだし,その部分アミノ酸配列をもとにそのcDNAをクローニングした。一次構造上,δサブユニットにはPP2AのB'サブユニットと高い類似性が認められ,δとB'とが一つのファミリーを構成することが明らかになった。 2.研究成果 (1)δサブユニットのスプライスバリアントの同定 ヒトの大脳皮質より,δサブユニットのスプライスバリアントをコードすると思われる2種類のcDNAを単離した。これらでは末端付近の32個または106個のアミノ酸残基からなる領域が欠失していた。これによりヒトのδサブユニットの多様性が明らかになった。 (2)分裂酵母のδサブユニット遺伝子の単離と機能解析 分裂酵母にもδサブユニットのホモログが存在することを見いだし,その遺伝子をクローニングして構造を決定した。さらにδサブユニットの生理的意義を分裂酵母をモデルにして解析するために,この遺伝子の破壊株を作成した。この株には増殖障害がみられたことから,δサブユニットが分裂酵母の増殖に必要であることがわかった。さらに変異株のストレス感受性,形態,細胞周期の異常の有無などを解析している。
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