申請者らはこれまでに、心筋症の代表的モデル動物であるハムスターは肥大型と予後のより悪い拡張型が共に同一遺伝子の異常を有することを証明した。このことは、心肥大など心機能維持に必須な他の遺伝子にも拡張型では異常が存在すること、言い換えれば、心機能維持に必須な遺伝子を拡張型心筋症ハムスターの第二の異常遺伝子として同定できることを意味する。 まず、拡張型では代償性心肥大機構にも異常があるのではないかと考えた。心肥大の分子機構に関する研究は1980年代後半から盛んに行われれ、肥大に伴い発現が増加する遺伝子と細胞表面から核内に至る情報伝達路がある程度解明されてきた。現時点における一応の理解は、圧力などの負荷→アンギオテンシンIIやエンドセリンなどのオートクリン/パラクリン物質の分泌一細胞表面受容体→Cキナーゼ→Ras/Raf前癌遺伝子-MAPキナーゼ→Myc/Maxなどの前癌遺伝子→ミオシンなど心筋特異的遺伝子の発現増加、である。肥大型と拡張型心筋症ハムスターにおけるこれら心肥大関連遺伝子の発現レベルを半走量的なRT-PCRで検討した。意外なことに、骨格筋型アルファアクチン、ミオシン重鎮など肥大心筋の主要構成成分を含み、心肥大関連遺伝子はいずれも拡張型では肥大型よりも亢進していた。 そこで次に、心筋細胞死が何らかの要因で亢進しでいるのではないかと考え、肥大型と拡張型心筋症ハムスターにおけるアポトーシス関連遺伝子の発現レベルを検討した。その結果、Fasなといくつかのアポトーシス関連遺伝子の発現が拡張型で有意に亢進していることを見い出した。以上のことから、拡張型心筋症ハムスターでは、心肥大機構の異常よりはアポトーシスの亢進がその発症機構にあるのではないかとの手応えを得た。
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