脊髄運動神経の細胞死を制御するメカニズムの解明は運動機能の発達・形成および運動失調症を知る上で重要な研究課題である。前年度までに本研究者は細胞膜スフィンゴ脂質の1つであるセラミドがその細胞内濃度に依存して、ラット脊髄運動神経培養細胞のアポトーシスに対して促進あるいは防御するといった機能的2面性を持ち、細胞死調節因子である可能性を報告した。今年度は神経栄養因子非存在下により誘導されるアポトーシスに対するセラミドの防御機構について、1)運動神経細胞のアポトーシス誘導にはどの様な細胞内情報伝達が関与しているのか、2)セラミドはどの情報伝達過程を阻害し細胞死を防御するのか、を検討した。 栄養因子非存在下で培養された運動神経細胞では、アポトーシス様細胞死が確認される培養1日目までに細胞内活性酸素(ROS)量の増加、過酸化脂質反応の亢進がそれぞれの特異的プローブを用いたin situ細胞染色により観察された。これら酸化シグナルはミトコンドリア電子伝達系の複合体lから産生されていることが、特異的な阻害剤を用いた添加実験により明らかとなった。またミトコンドリアの膜電位を電位依存的色素の取り込みにより測定した結果、ROS産生に先立ちミトコンドリアの機能低下が確認された。実際この機能低下を抑制した結果、細胞内ROS上昇および細胞死が抑制された。さらにミトコンドリア機能低下の原因を探ったところ、ミトコンドリアへのCa^<2+>の過剰取り込み、phospholipaseA2(PLA_2)の活性化が関与していることが判明した。これら一連の細胞内情報伝達に対してセラミドは、ミトコンドリアの機能低下を抑え、酸化シグナルの産生を阻害することとにより細胞死を抑制することが明らかとなった。
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