肝型アルギナーゼは、尿素サイクル酵素の一つであり、アルギニンを加水分解してオルニチンと尿素を生成する反応を触媒する。一方、最近、我々は非肝型アルギナーゼのクローニングに成功した。最近、エンドトキシンショックの原因として一酸化窒素(NO)が注目を集めているが、エンドトキシンによってNO合成酵素(NOS)が誘導される状態ではアルギナーゼ活性の誘導も認められるという報告がある。NOSとアルギナーゼとはともにアルギニンを基質とするところから、アルギナーゼをNOSが発現している細胞に誘導できればアルギニンの競合がおこり、NO産生を抑制でき、エンドトキシンショックの治療法として応用できる可能性が考えられる。 本年度はまず、非肝型アルギナーゼ遺伝子を大腸菌にて大量に発現させ、これを抗原としてウサギを免疫し、抗体を作成し、ラットにおけるこの酵素の組織分布の解析を行い、腎臓および小腸に高い発現を認めた。現在、種々の薬物の投与による非肝型アルギナーゼの発現レベルの変化を調べている。 また、マウスマクロファージ系培養細胞であるRAW細胞を使用して、誘導型NOS(iNOS)と非肝型アルギナーゼの誘導を調べた。その結果、大腸菌リポポリサッカライド(LPS)によりiNOS、非肝型アルギナーゼともに誘導された。LPS+IFNγではiNOSの誘導は増強されたが非肝型アルギナーゼは発現が抑制された。ところが、これにさらに合成グルココルチコイドであるデキサメサゾンと、アドレナリンのセカンドメッセンジャーであるcAMPを加えると、iNOSと非肝型アルギナーゼの共誘導が認められた。デキサメサゾンとアドレナリンとはショック治療に使用される薬物であることから、両者のショック治療薬としての作用機構の一部にアルギナーゼの誘導によるNO産生の抑制が関っている可能性が示唆された。
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