本研究は、筋緊張性ジストロフィー(DM)の原因タンパク質、DMキナーゼが筋肉における新規の低分子量熱ショックタンパク質(sHSP)、MKBPと相互作用するという事実に基くものである。今年度はこの相互作用がDMの発症機構にいかに関わっているのかを明らかとすべく実験を進め、以下に示すような結果を得た。 1.in vitorのリン酸化実験系において、1)MKBPはDMキナーゼの基質とはならず、むしろその活性化因子として働くこと、2)この作用は、MKBPのDMキナーゼ・キナーゼ領域に対する特異的なシャペロン活性によるものであることを明らかとした。また、免疫組織学的研究から、内在性MKBPがDMPKが局在すると報告されている神経筋接合部に濃縮していること発見し、MKBPとDMPKの相互作用が生体内でも起こっているとを裏付けた。 2.一方で、新規タンパク質であるMKBPの定性についても同時に進め、1)熱処理にともなう後期応答として、MKBPのタンパク質の増大がみられること(但し、この熱応答は他のsHSPと異なり、翻訳レベルの応答である)、2)sHSPの特徴的な初期応答である熱処理後の不溶性画分への速やかな移行を、MKBPも示すこと(但し、その熱感受性は既知のものの中で最も低いこと)、などを明らかとした。また、MKBPが、筋肉細胞可溶性画分中で既知のsHSPsが形成する大きなヘテロ複合体とは異なる独立した複合体を形成していることも発見した。 以上の結果をもとに、1)MKBPは筋肉細胞内で既知のsHSPが構成するものとは独立したユニークなストレス応答系を形成しており、2)DMキナーゼはこのMKBPによって活性化されることを通じて、筋肉のストレス耐性に寄与していること、3)さらにDMの発症はこの機構の乱れに基づく筋肉への障害の蓄積によるという仮説を論文化し発表した。
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