癌細胞が浸潤・転移する際には基底膜や結合組織中の細胞外マトリックスを通過することが必須であり、生体内における癌細胞による各種細胞外マトリックスとの接着あるいは産生・分解の分子機構の解明は浸潤・転移の制御あるいは阻止法の開発へとつながる事が期待される。本研究は、癌細胞の転移に関連する分子の単離・同定を目的として、マウス皮下移植自然転移モデルであるcolon26マウス結腸癌細胞系の高転移性亜株LuM1と低転移性亜株NM11の無血清培養上清について、細胞外マトリックス分子に結合する分泌蛋白質の比較・検討を行った。その結果、I型とIII型コラーゲン分子に対して特異的に結合し、癌細胞株のin vivoにおける転移性と発現量が逆相関する分子量45kDaのコラーゲン結合性セルピンを見いだし、これをcaspin(collagen-associated serpin)と名づけた。Caspinの発現をマウス組織の免疫組織化学的解析によって調べたところ、胎生12〜13日に胎仔脊椎の軟骨マトリックスに検出され始め、胎生15〜16日には全身の軟骨マトリックスに、そして骨化の進行とともに骨マトリックスに特に強い染色性を認め、血管、尿管等の平滑筋、表皮直下の間質にも比較的豊富に分布することから、caspinは発生期のマトリックス構築に極めて重要な因子であり、その細胞外マトリックスへの結合能が重要な作用機序の一つである可能性が示唆された(投稿中)。 さらに、caspin cDNAをCMVプロモーター支配下につないだ発現コンストラクトを複数の自然高転移細胞株にエレクトロポレーション法で遺伝子導入し、トランスフェクタントの作成を行った。現在caspin遺伝子導入細胞株におけるin vitro細胞増殖速度の変化を検討するとともに、in vivoにおける組織型や造腫瘍性の変化及び転移性に及ぼす影響について検討を進めつつあり、caspinの腫瘍増殖能に対する影響や癌転移成立過程における抑制的関与について明らかにする事ができるものと期待される。
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