平成2年2月から東京大学医学部附属病院でも部分生体肝移植が行われるようになったが、先天性胆道閉鎖症に対して肝門部空腸吻合術を施行されたのち約10年後に、胆汁性肝硬変になり摘出された肝に、径10cmまでの巨大な腫瘤をに形成した症例を5例経験した。また先天性胆道閉鎖症で病理解剖された症例を、昭和39年から平成8年の33年間にわたり調査したところ14例あり、このうち13例は2歳以下での死亡であった。15歳で死亡している症例が1例あり、この肝臓にも同様の巨大な腫瘤が肝門部に認められた。つまり先天性胆道閉鎖症に対して肝門部空腸吻合術を行い、その後10数年経過した症例にのみ肝腫瘤が形成され、しかもすべて肝門部に存在していたということが判明した。 組織学的には、単位面積当たりの核密度やKupffer細胞数、鉄の沈着、増殖関連抗原などの発現から、neoplasticでない再生性の腫瘤であることが分かった。また組織計測の結果、この結節内には胆管が保たれる傾向にあることが明らかになった。さらに結節内のGlisson鞘に対する門脈の割合は、非結節部のそれに対して有意に高く、従って結節内には周囲よりも門脈血流が多いことが示唆された。 先天性胆道閉鎖症で胆汁性肝硬変に至った肝に腫瘤が形成されたという報告は、国内国外を問わず皆無である。この再生性と考えられる腫瘤の発生は、10歳以上の肝門部空腸吻合術を施行された症例のみに認められることを考え合わせると、門脈血の多い肝門部の肝細胞が増生し、まさにこのことによって肝機能が比較的よく保たれ、生命を保っていたと考えられた。
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