研究概要 |
胃腺腫は胃癌の前癌病変と想定され、悪性転化例が指摘されてきた.この研究では、胃腺腫の悪性化・浸潤転移能獲得の指標について、細胞周期調節に働くCyclin EやCDK-inhibitorであるp27(Kip-1)蛋白の発現を早期胃癌分化型例と比較し検討した.対象として、外科的あるいは内視鏡的に切除された胃腺腫(53例)と胃分化型早期癌例(m癌29例:mCa、sm癌23例:smCa)を用いた.腺腫例は、HE標本からHigh-grade adenoma(HGA:22例、腺腫内癌例の腺腫を含む)とLow-grade adenoma(LGA:31例)に分類した.方法として、Cyclin E(Calbiochem,HE12,100倍),p27(Novocastra,1B4,40倍)モノクローナル抗体を用い、免疫組織化学的にそれらの蛋白発現を検討した.Cyclin Eは、びまん性に陽性の過剰発現例が腺腫例では0%、mCaの11%とsmCaの22%に見られた.しかし腺腫例では、腫瘍表層に局在した弱陽性例をHGAの14%、LGAの29%に認め、陽性例としては腺腫の23%、腺癌の44%と判定された.p27蛋白については、高発現例をLGAの77%、HGAの59%、mCaの66%、smCaの48%に認めた.smCaのリンパ節転移例には、p27蛋白発現の低下例が多かった.これらの結果から、1.Cyclin E蛋白の過剰発現は腺癌のみに認めたが、腺腫例でも腫瘍表層に弱陽性細胞をfocalに認め、その弱発現は腺腫の悪性化とは相関しないと思われた.2.p27蛋白の発現低下はLGA例では頻度が少なく、HGA例や腺癌例で高い傾向が見られ、悪性化やリンパ節転移等との関連が示唆された.3.Cyclin Eの過剰発現例でp27蛋白の発現低下を認めたものは少数であり、両蛋白発現の相関は明らかではなかった.
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