【背景】肝細胞癌(肝癌)は一般に動脈血支配であるが、それらの中には、動脈血優位でないもの、グリソン域を腫瘍内に有しているもの、血洞が類洞構造を残存しているもの等が知られている。今回我々は、2cm以下の肝癌におけるVEGFの産生と臨床病理像の相関を検討し、発生初期の肝癌の血管獲得機序について考察した。 【対象と方法】直径2cm以下の肝癌(肝内転移を除く)74結節を対象とした。切除標本は10%ホルマリンで固定、LSAB法による抗VEGF抗体、抗第VIII因子関連抗原(F-VIII)抗体による免疫組織化学で発現を観察した。また、臨床病理学的事項として1)動脈造影像、2)分化度、3)腫瘍被膜の有無、4)周辺組織への浸潤形態(置換型と膨張型)をHE標本にて観察しVEGF発現との相関を検討した。 【結果】小肝癌全体中、動脈造影陽性結節は46%、分化度は高分化型55%、中分化型23%、低分化型22%であった。被膜を有する結節は54%、類洞型ないしは置換型の浸潤形態を呈する結節は54%であった。F-VIII陽性血洞を有する肝癌は61%、VEGFの発現は43%であった。VEGFとF-VIII、他の臨床病理学的因子との相関を検討すると、動脈造影陽性像(p<0.05)、血洞内皮F-VIII発現(p<0.05)、膨張型浸潤形態(p<0.05)にVEGFと正の相関の統計学的有意差を認めた。また、分化度において高分化型にVEGFの発現が弱い傾向を認めた。 【考察】上記結果を換言すれば、VEGFは富動脈血で血洞が毛細血管である小肝癌に発現が多く、これはVEGFの作用による血管新生により毛細血管-動脈血機構を獲得したことを推察させる。しかし、周辺組織への浸潤形態が置換型である肝癌や高分化型肝癌ではVEGFの発現は弱く、腫瘍自体の動脈血需要は低いために類洞-門脈血機構で生存していることが示唆される。
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