研究概要 |
我々は以前に、神経ペプチド:Vaso active Intestinal Polypeptide(VIP)がColon26-L5結腸癌細胞の基底膜浸潤を抑制することを見い出した。本研究では、VIPによる細胞浸潤阻害機序の解析およびこの癌細胞のマウスにおける実験的肝転移に及ぼすVIPの影響について検討した。1.VIPによる癌細胞の基底膜浸潤阻害機序の解析---VIPは、上記結腸癌細胞の細胞外基質成分(フィブロネクチンおよびラミニン)への接着を促進した。一方VIPは、上記細胞外基質成分への接触移動(運動性)を濃度依存的に抑制した。ゼラチンザイモグラフィーより、VIPは癌細胞からの基底膜分解酵素(MMP-2,-9)の産生およびその酵素活性には影響を与えなかった。2.VIPによる細胞運動阻害機序の解析---VIPは、癌細胞からの自己分泌型細胞運動促進因子(AMF)の産生および細胞膜上のAMFreceptorの発現量には影響を与えなかった。一方、この細胞の培養上清中に細胞運動阻害活性が認められ、この活性は細胞のVIP処理で約2倍に増強された。アデニル酸シクラーゼの活性化剤およびその阻害剤を用いた実験より、VIPによる細胞運動の阻害に細胞内cAMPの上昇が関与していることが示された。3.癌細胞のHGFへの走化性に及ぼすvの影響---VIPは、癌細胞の肝細胞増殖因子(HGF)への走化性を阻害したが、その作用機序として細胞膜上のHGFreceptor(c-met)の発現をタンパク質レベルおよびmRNAレベルで抑制している可能性得が示唆された。4.Colon-26-L5細胞のマウスにおける実験的肝転移に及ぼすVIPの影響---Colon26-L5細胞の門脈内接種による実験的肝転移は、この細胞を予めVIPで前処理することにより、あるいはVIPと同時投与することにより著明に抑制された。癌細胞の原発巣および転移巣で、その増殖に寄与している癌細胞誘導性の血管新生についてマウスのモデル実験にて検討した結果、背部皮内に移植された癌細胞により誘導される新生血管は、VIPの局所投与により有意に減少した。また、in vitroの機序解析よりVIPは、血管内細胞の運動性を阻害している可能性が示唆された。 現在、上述のすべての結果を3部に分けて投稿中あるいは投稿準備中である。
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