一過性脳虚血の後、ある一定時間を経過したのち神経細胞死をきたすことが知られており、特に海馬、中でもCA1と名づけられた領域において、この現象が顕著に観察され、遅発性神経細胞死と呼ばれている。近年、様々な疾患、病態におけるアポトーシスの関与が明かにされつつあるが、特に最近ではアポトーシスを促進する働きのある蛋白Bax及びアポトーシスを抑制する働きのあるBcl-2の検索がアポトーシスを理解する上で重要視されている。これら蛋白の遅発性神経細胞死における発現は、すでに昨年度の研究実績として報告した。さらに最近、かなり特異的にアポトーシスを抑制するある種の蛋白質分解酵素阻害剤が報告されており、これまでのわれわれのスナネズミ一過性脳虚血モデルにおける海馬CA1領域の遅発性神経細胞死の研究をもとに、当大学薬理学教室の協力を得て、アポトーシス抑制物質、蛋白質分解酵素阻害剤(N-tosyl-L-phenylalanyl chloromethyl ketone;TPCK)の投与量、投与条件を模索しながら、スナネズミー過性脳虚血モデルにおいて、遅発性神経細胞死をTPCKにより防御することの有効性を平成10年度研究実績として証明した。このTPCKによる遅発性神経細胞死の抑制は、虚血操作のあとにおける投与においても有効であったため、今後はヒト脳虚血に対する保護効果を期待できると考えている。遅発性神経細胞死の成因を解明することは、老人性痴呆の原因の解明にもつながると考えられ、最近の我々の研究も含めて明かとなった遅発性神経細胞死の本質すなわちアポトーシスをコントロールすることにより、老人性痴呆の防御の手がかりともなりうると考えられる。
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