研究概要 |
retプロトオンコジーンはGDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)をリガンドとする受容体型チロシンキナーゼをコードし、甲状腺髄様癌、副腎褐色細胞腫を遺伝的に発症する多発性内分泌腫瘍症(MEN)2A型、2B型及び大腸腸管神経節が欠損したために生じるヒルシュスプルング病(以下HSCR病)の原因遺伝子であることが明らかになっている。本研究ではHSCR病型変異を有するRET蛋白の不活化する機序を生化学的に解析した。 1、MEN2AとHSCRが同一家系に生じるシステインリッチドメインのCys609,618,620の変異を中心にCys611,630,634の変異、計18種類の変異をret遺伝子に導入し、マウス線維芽細胞NIH3T3細胞にトランスフェクトしたところ、全ての遺伝子にトランスフォーミング活性が認められたが、Cys609,618,620の変異体のトランスフォーミング活性はCys611,630,634の変異体のそれよりも低かった。各Ret蛋白が過剰発現している細胞株を樹立し、抗Ret抗体によりウェスタンブロットするとCys609,618,620の変異体を発現している細胞株ではCys611,630,634の変異体を発現している細胞株に比較して、細胞膜に局在する175kDaのRet蛋白及び細胞膜上で形成される350kDaの二量体Ret蛋白も減少していることが解明された。以上の実験結果より、Cys609,618,620の変異を有するRet蛋白は細胞膜への輸送が障害されており、GDNFが結合する細胞膜上のRet蛋白が減少することで腸管神経節の分化、生存に支障をきたすものの、二量体は形成されるため甲状腺髄様癌及び褐色細胞腫が生じるものと考えられた。 2,HSCR病において発見された細胞内ドメインの12種類の変異(膜直下ドメイン1種類、キナーゼドメイン10種類、C末ドメイン1種類)をret遺伝子に導入したところ、C末ドメインの1種類の変異を除いて、Ret蛋白の活性化を抑えることが解明された。
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