c-retプロトオンコジーンは、細胞外ドメインにカドヘリン様構造を有する受容体型のチロシンキナーゼをコードし、多発性内分泌腫瘍症(MEN)2A・2B型の原因遺伝子として知られる。グリア細胞が分泌する神経栄養因子であるGDNFとGPIアンカー蛋白であるにGDNFR-_αの複合体の形成により、Retの活性化が導かれる。本年度の研究では、MEN2型変異によるRetの活性化と、GDNFによるRetの活性化について解析を行った。 Ret及びGDNFR-_αを発現する神経芽細胞腫細胞株を用いた実験で、GDNFの添加によりRet蛋白は2量体と考えられる蛋白相互の会合を起こした。GDNFにより、GTP結合型Rasの増加、MAPキナーゼのリン酸化が検出され、Ras-MAPキナーゼ経路の活性化が判明した。シグナルに関与するアダプター蛋白について検索したところ、Shcが自己リン酸化したRetと結合し、Shc自身がチロシンリン酸化され、Grb2に結合することが分かった。したがって、Ret→Shc→Grb2→SosからRas→MAPキナーゼヘのシグナルが考えられた。 Shcの解析を進めたところ、MEN2A型変異ではRetはShcのPTBドメインとSH2ドメインの両者に結合するのに対し、2B型変異ではPTBドメインのみに結合することが明らかとなった。GDNFにより活性化されたRetはShcのPTBとSH2の両者に結合した。これらの結合様式の違いが、Shcを介したシグナルに影響を与えている可能性がある。
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