我々は以前、マスト細胞特異的に発現するマウス・マスト細胞プロテアーゼ6(MMCP-6)遺伝子が転写因子MITFの異常マウスであるmi/miマウス由来培養マスト細胞で発現が低下していることを明らかにし、その機構を解明した。転写因子MITFはMMCP-6遺伝子のプロモーター領域に存在するモチーフに直接結合し、転写を活性化していた。今回、我々はMMCP-6遺伝子と同様、マスト細胞に特異的なプロテアーゼをコードするMMCP-5遺伝子の発現が、mi/miマウス由来培養マスト細胞で低下していることを見出した。MMCP-5はプロテアーゼであるが、器質特異性の違いによりMMCP-6とは異なるキマ-ゼに分類される。またmi/miマウス皮膚マスト細胞でMMCP-6遺伝子は培養マスト細胞同様発現が低下しているのに対し、MMCP-5遺伝子は正常とほぼ同程度に発現されていた。mi/miマウス由来培養マスト細胞にSCFを添加して培養したところ、MMCP-5遺伝子の発現が上昇したのに対し、MMCP-6遺伝子の発現は全く上昇しなかった。以上のことによりMMCP-5遺伝子はMMCP-6遺伝子と異なる機構で転写が制御されているものと考えられた。MMCP-5遺伝子のプロモーターにあるモチーフが転写活性化に重要であることがわかったが、MITFは直接その部位には結合しなかった。正常型MITFを強制発現した細胞の核抽出物中にこのモチーフに結合するタンパクが存在していたが、mi/miマウスのもつ変異型MITFを強制発現した細胞の核抽出物中にはそのタンパクの濃度が低下していた。これに対し、変異型MITFを強制発現した細胞の細胞質中にはこのタンパクが豊富に存在しており、変異型MITFがこのタンパクの細胞質から核への移行を阻害している可能性が示唆された。以上よりMITFはMMCP-5遺伝子の転写をMMCP-6遺伝子の転写制御とは異なる機構で制御していることが示唆された。
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