昨年度までにc-kit mRNAとその産物が、男女の正常乳腺(管)上皮と男性の増殖性病変に広く認められる一方、女性の良悪性境界病変以上で有意に発現が抑制されることが明らかである。10年度はc-kit産物がreceptor型tyrosine kinaseであることを考慮し、乳腺増殖性病変におけるc-kit増物とphosphotyrosineの発現の相関性についても検討したところ、かなりの頻度で両者の発現が同一の局在をもって平行することから、c-kit産物が実際にtyrosine kinase activiを有する可能性も示唆された。また、乳腺上皮の悪性変化のスペクトラム(正常、良性増殖性、良悪性境界、非浸潤性悪性、浸潤性悪性)において、血管収縮ペプチドとしT同定された endothelin(ET-1)とそのreceptor(ET-BR)の発現を免疫組織化学的に検討したところ、その発現パターンに性差はなく、ET-1は乳腺増殖性病変に広く認められ、ET-BRは正常、良性増殖性、浸潤癌において高頻度に認められたものの、異型乳管上皮過形成、非浸潤性乳管癌ではその発現が有意に抑制されることが示さた。 これより、c-kitがん遺伝子とその産物の消失が女性乳腺上皮の悪性変化の初期に関与し、乳腺上皮の悪性変化の過程に性差が存在する可能性が示唆された。また、既知の乳癌関連遺伝子産物のほかにETとそのreceptorも浸潤性乳癌においてはautocrine/paracrine形式をとって作用し、異型乳管上皮過形成、非浸潤性乳管癌で抑制されていたET-BRが浸潤癌化に伴って発現することから、性差を問わず乳癌の浸潤にはET-BRの過剰発現が関与する可能性が示唆された。
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