研究概要 |
細胞質不和合性はリケッチア様因子Wolbachia pipientisが起こす現象で、典型的な交配パターンとして感染した雄としていない雌の交配で産まれる卵の孵化率が下がり、数十種類の節足動物に感染がしられている。孵化率の低下は、完全に卵が孵化しないもの(完全不和合性)から、孵化率がわずかに下がるの(不完全不和合性)まで、種によって異なり、その細胞質不和合性のメカニズムは不明な点が多い。キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のWolbachiaに感染したある系統では、その示す細胞質不和合性の度合(孵化率)に大きな幅があったので、その系統を20代にわたって兄弟交配を行った。その遺伝的バックグラウンドが均一になった兄弟交配系統のなかには、高い不和合性をしめす系統(HS)、低い系統(LS)が現われた。これらの系統の細胞質不和合性の度合の違いが寄主であるショウジョウバエか、それぞれに感染しているWolbachiaによるものかを明らかにするために、感染しているWolbachiaをテトラサイクリンで除去したあとに、HSにLSに感染していたWolbachiaを(HS-LW)、LSにHSに感染していたWolbachiaを(LS-HW)、それぞれの卵に注入して感染させた。それらのWolbachiaを交換した系統HS-LW、LS-HWの細胞質不和合性の度合は、やはりHS-HWでは高く、LS-HWでは低かった。また、HS、LSに感染していたWolbachiaの16srRNA,ftsZ遺伝子の一部をPCRで増幅し塩基配列を決定したところ完全に一致した。これらのことはHS、LSでの細胞質不和合性の度合の違いは感染しているWolbachiaによるものではなく、寄主であるショウジョウバエの遺伝的な違いであることを示している。
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